妊活中は登山を控えるべきか?

権現岳山頂から八ヶ岳(赤岳・阿弥陀岳)
権現岳山頂から八ヶ岳(赤岳・阿弥陀岳)
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このページの内容は個人の見解であり、私が妊活を行っていた2018~2020年頃の情報です。妊活中の登山の是非や不妊治療については、信頼のおける最新のリソースをご参照の上、各自の責任でご判断下さい。

「妊活中に登山に行くべきではない」・・・妊活していた時、時々このような情報を目にしました。妊活中はどのような情報でもプラスになるのであれば知りたいと思いネットサーフィンをして検索魔になりがちでした。

ウォーキングなどの有酸素運動は推奨されるのに対し、登山は無酸素運動だからNG?登山って本当に無酸素運動なの?とやや疑問に思いながらも、少しでも妊娠可能性を高めるためならどんなことでも実践しようとしていました。そして、実際にできるだけ高山に行くのを避けていた時期もありました。

恐らく同じような疑問を持つ方もいらっしゃると思いますので、自分自身も妊活していた時を振り返りながら、体験談を記したいと思います。

タイムライン

  • -2018夏
    独身時代
    1人で山を楽しむ。
  • 2018秋
    結婚
    スピード婚だった夫と色々な山に登る。この時点で42歳。
  • 2018冬
    不妊治療開始
    「妊活中は山に登らない方が良い」というネット情報に惑わされ山をセーブするようになる。時間的にも行く余裕がなくなる。
  • 2019夏
    不妊治療終了
    諸事情(後述)により不妊治療は止める。子供がいない人生もいいかな、と割り切れるようになり存分に高山も冬山も楽しむようになる(山行内容は後述)。
  • 2020春
    妊娠
    山によく行っている時期に44歳目前で妊娠が発覚。自然妊娠でした。

妊活前は登山を楽しんでいた

私は42歳の頃、夫と出会って結婚しました。夫も登山やクライミングが趣味だったため、意気投合してスピード婚でした。もっとも夫はアラスカのデナリを単独登頂したり、冬の北鎌尾根に登っていたり、かなりの上級者。私は日帰り登山が中心で夫と出会う少し前にようやく小屋泊の登山をするようになったばかり。実力は雲泥の差でしたが、夫は私のレベルに合わせてくれ、出会ってから結婚まではよく2人で登山に行きました。

不妊治療に左右された登山計画

結婚すると、42歳という年齢も顧みずに、子供が欲しいなあと思うようになりました。

半年間ですが不妊治療にも通うようになり、そんな時期に検索魔になって最初に書いた妊活中の登山について否定的な記事をいくつか見ることになりました。

妊活中は必死なもので、科学的根拠があるかどうかも関係なく、できることは試したいと思ってしまうものです。そこで、特に山に行ってはいけないとされる黄体期は登山を控えていました。不妊治療のステップが上がるにつれ、スケジュールの制約も厳しくなり、物理的にも泊りの登山に行くことが難しくなりました。特に治療が進んで毎日注射を打つようになると、その周期はほぼ登山に行くことができませんでした。

半年ほど不妊治療を試しましたが、結局成果は出ませんでした。

登山に行きたくても毎日注射に通わなくてはならず、ストレスも溜まるため、43歳になる頃に治療は諦めました。以降は妊活のために何かを犠牲にすることはやめ、やりたいことはやり、子供ができるかどうかは自然に任せることにしました。

私は不妊治療からの妊娠には至りませんでしたが、クリニックに通ったこと、ほぼ一通りの治療を行ったことについては全く後悔していませんむしろ自分の状況が分かって良かったと思っています。登山の話題から少し離れますが、登山のためだけに不妊治療を止めたわけではなく、また不妊治療を否定する立場ではありませんので、誤解のないように不妊治療をやめる決断をした背景にも少し詳しく触れたいと思います。

不妊治療を諦める

私の場合、当時の検査や治療から分かる範囲では、不妊要素は子宮筋腫、AMHの低さ、年齢(卵子の老化)だけのようでした。

子宮筋腫、AMH、年齢(卵子の老化)については、少なくとも私が不妊治療に通っていた2018~2019年頃は有効な治療法がありませんでした。子宮筋腫は手術で摘出するという方法もありますが、手術後1年程度避妊しなければならず、仮にその後妊娠しても出産は帝王切開になると聞かされました。当時42歳だった私には手術後1年間避妊というデメリットは大きすぎました。

仮に、生理周期(ホルモンの状態)が不安定とか、卵管閉塞、男性不妊といった、不妊治療の効果が大きい要因があれば、不妊治療を続けていたかも知れません。そういった症状ではなくても、排卵誘発剤が効きやすく卵子が多く採れるとか、胚盤胞が確実にできるような状況であれば、妊娠確率を上げることができるため、やはり続けていたかもしれません

私の場合はそういった治療の効果が高い不妊要因はなく、誘発剤で卵子が多く採れるということもなく、何回か体外受精をしてやっと胚盤胞が1個できるかできないか程度だろうという状況でした。胚盤胞ができなかった周期は注射をしてホルモンバランスを乱し、登山などを我慢してストレスを溜めただけということになり、マイナスでしかありません。当時の不妊治療は保険適用ではなく、42歳までは体外受精や顕微授精では補助があったもののうちは年収制限で対象外でした。同じ治療を胚盤胞ができるまで、さらにそれが無事成長して妊娠出産に至るまで、結果が出るか分からないことにこれ以上時間もお金も投資する気分になりませんでした

治療をやめたもう1つの理由に、治療中に子宮筋腫がどんどん増えて大きくなっていったこともあります。薬や注射による影響か、偶然かは分かりませんが、不妊治療を始めた途端に加速度的に大きく増えていったような気がしました。のちに妊娠した時のエコーでは子宮筋腫の状態は不妊治療終了時点とほとんど変わってはいませんでした。頑張って胚盤胞を作ってもその間に着床しにくい体になってしまうようでは、そもそも不妊治療の意味がないと思いました。

結局、努力や我慢が報われるとは限らない不妊治療を続けるより、我慢せずに趣味などを続ける生活を続ける方が合っていると思い、半年で治療に見切りを付けたました。子供がいれば良いけど子供がいない人生もまあ良いだろうと諦めがついたこともあります。

ただし、排卵日予測アプリを活用する、妊活に推奨されているサプリメント(葉酸に加えビタミンD やカルニチンなど)を摂取する、お酒は控える(もともとほとんど飲んでいませんでしたが)など、自分自身がストレスだと感じない範囲で妊活に良いとされることは続けることにしました

「40代で妊娠を狙うならすぐに不妊治療を始めるべき」という記事を見かけます(私もそういう記事を見て結婚直後にクリニックに駆け込みました)が、半分賛成で半分反対です。

不妊要因がないか早く検査をするのは重要だと思っています。

クリニックに行くと最初に不妊要因がないかを調べます。まだ若くて生理周期などに問題がなければ、なかなか自然妊娠に至らなかったら調べてみるでも良いかもしれません。しかし30代後半や40代で結婚して子供が欲しいのであればいち早く調べておいた方が良いと思います。

また治療を一通り経験しておくのも悪くはないとは思います。排卵誘発剤が効きやすい体質か、どのくらい卵子が採れるのか、受精できるのか、胚盤胞がちゃんと育つのかなど、治療を通じて分かることもあると思います。

ただ、不妊要因の検査(1日で終わるわけではなく周期のタイミングで見る内容が違うので時間がかかります)の過程でいつのまにか同時並行でタイミング療法に入り、薬が処方され、気が付いたら不妊治療のファーストステップに入っている感じでしたので、クリニックによって違いはあるかも知れませんが、もう少し説明が欲しかったなあ…と思うこともあります(体外受精以降は説明があり同意書などを書かないと進めません)。

また、婦人科医側から発信される情報は全て不妊治療のメリットばかり。不妊治療のデメリットや自然妊娠のメリットについてはほとんど語られることはありません。例えば薬や注射などによるホルモンバランスの乱れや、不妊治療に伴うストレスなどは妊娠の妨げにならないのでしょうか?不妊治療に携わる婦人科医からは、不妊治療のメリットばかりでなくデメリットも真摯に説明して頂きたいです。そういったプロセスなしで、高齢妊娠を目指す全ての人に不妊治療ありきで語られる今の風潮は疑問に思うこともあります。

話題を本題の登山に戻します。

我慢せずに登山を楽しんだ

不妊治療をやめてからは自然と毎週末のように夫と2人で登山に行く生活に戻り、クライミングや冬山登山にも挑戦するようになりました。以下は不妊治療を止めた2019年前半以降、妊娠数ヶ月前からの山行です。

不妊治療後(妊娠数ヶ月前)~妊娠超初期の山行

※妊娠前は写真投稿用のブログとして運営していたため、写真がほとんどなくこのブログに投稿していない山行についてはヤマレコにリンクしています。

それなりの頻度で高山や冬山にも登っていることがお分かりいただけるかと思います。妊活中の登山は、やれ標高の高いところに行くなとか、体を冷やすな、としばしば言われますが、少なくとも私は不妊治療を止めてから、標高も寒い場所も気にせずに行きたい山に登りました。

心身ともに調子が良い状態で、妊活のことも忘れかけていた44歳目前で妊娠が判明しました。

私も含め、登山を続けながら妊娠している人は数多くいますし、結局のところ、登山は関係ないのでは?と思います。それより心身共に充実している方が良いのでは?と思うくらいです。

仕事のことを少しだけ…

登山のことばかり書くと、登山だけが妊娠に良い影響をもたらしたのではないかという誤解も受けるかも知れないので、他の要因も少し書いておきます。心理的な面では、仕事の環境も変わりストレスが減ったということも大きな要因としてあったということも付け加えておきます。

2019年9月までは常勤で大学教員をしていましたが、博士号を取るための受験準備として2019年10月から非常勤に変更してもらいました。常勤の場合、教員の本来の仕事(研究や学生への教育など)と関係のない雑務にも追われることが多いことなどがストレスだったのですが、非常勤になり、雑務や人間関係のしがらみから解放されて、ストレスが減ったということが大きいです。

余談ですが、妊娠が判明したのは博士課程の大学院に合格し、いよいよ入学と思った2020年3月下旬でした。不妊治療を諦め、別の生きがいを見つけたら妊娠してしまった…というどこかで聞いたあるあるな話です。

妊娠超初期の登山

妊活をしていると、妊娠に気付く前の妊娠超初期の登山のことも気になるかも知れません。

酸素不足と冷えは流産の要因にもなるとされています。しかし少なくとも私は、上記のように妊娠超初期~初期に雪山に行っていましたし、雪中テント泊もしていました。

流産の原因は染色体異常がもっとも多く、その他の要因も感染症や不育症などが多くの割合を占めます。ほとんどの場合、流産する時は山に行っても行かなくても流産してしまうものです。山が原因で流産する人がどのくらいいるのかと言ったデータはないと思いますが、登山が流産の引き金になることは考えにくのではないかと思います。

高山病にかかりやすい方はいきなり標高の高い場所に行かない方が良いですし、冷え性が酷い方は、寒い季節・場所への登山は止めたほうが良いかもしれません。ですがそれは妊娠していてもしていなくても同じことだと思います。

しいて言うならば、それでも妊娠超初期の胎児への影響が心配でしょうがない方は、心配しながら登山するより、妊活を始める時点で登山もスパッと止めた方が良いかもしれません。つわりがひどいなど体調面に変化を感じる時も無理しない方が良いかと思います。

個人的な経験からの見解にすぎませんが、無酸素運動を日常的にしていたって、寒い場所に住んでいたって、妊娠出産する時はするのですから、心身ともに健康で、通常行っている山行の技術・体力・標高・温度の範囲内で体調管理を行った上での登山であれば、登山が直接的な原因で流産するということは考えにくいように思います。

妊娠中の山行についてはこちらもご参考ください

登山と妊活について感じること

登山が大好きな方は、妊活中もキープした方が、ストレスを溜めることもなく、運動不足になることもなく、心身ともに健康を保つことができてメリットが多いのではないかと思います。

もっとも、不妊治療中の方に治療を放棄してまで登山を続けるように勧めるわけではありません。

不妊治療の効果が大きい方は治療を優先した方が良いかもしれません。年齢的なリミットもあることです。登山に行ったことを後悔するくらいなら止めた方が良いと思います。山は逃げません。出産後でも妊活に区切りをつけたタイミングでも、また機会は訪れますし、その時に好きなだけ行けば良いのです。

登山を無理して止める必要は全くないし、逆に治療でスケジュールの調整が難しい時期に無理して続ける必要もない、自分の心に問いかけて、その時にどこに心が向いているか考えて決めるのが良いのだと思います。

北アルプス・常念岳山頂

妊娠発覚直前に登った北アルプス・常念岳(登山時は気づいていませんでしたが実は妊娠2ヶ月でした)

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