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※写真は妊娠直前に登った権現岳(八ヶ岳)
「妊活中に登山に行くべきではない」
妊活していた時、時々このような情報を目にしました。妊活中はどのような情報でもプラスになるのであれば知りたいと思いネットサーフィンをして検索魔になりがちでした。ウォーキングなどの有酸素運動は推奨されるのに対し、登山は無酸素運動だからNG?登山って本当に無酸素運動なの?とやや疑問に思いながらも、少しでも妊娠可能性を高めるためならどんなことでも実践しようとしていました。そして、実際にできるだけ高山に行くのを避けていた時期もありました。
でも・・・自分自身の経験では、少なくとも妊活前から習慣的に山に登っている人は、わざわざ妊活のために止める必要はないのではないかと思います。実際に私は山をセーブしていた時期は妊娠せず、妊活(治療)を諦めて毎週末のように山に行くようになった時に突然妊娠しました。毎週末のように登山に行っていた時期は心身共に充実していました。登山が大好きな方が登山を突然やめるのは、ストレスが溜まるだけでなく運動不足の原因にもなり、心理的にも身体的にも妊娠には逆効果なような気がします。ほとんど登山をしていないような人がいきなりご来光富士登山をするといったような、高山病のリスクの大きい登山をするのであれば話は別ですが。
私は42歳の頃、夫と出会って結婚しました。夫も登山やクライミングが趣味だったため、意気投合してスピード婚でした。もっとも夫はアラスカのデナリを単独登頂したり、冬の北鎌尾根に登っていたり、かなりの上級者。私は日帰り登山が中心で夫と出会う少し前にようやく小屋泊の登山をするようになったばかり。実力は雲泥の差でしたが、夫は私のレベルに合わせてくれ、よく2人で登山に行きました。
結婚すると、欲が生まれるもので、42歳という年齢も顧みずに、子供が欲しいなあと思うようになります。半年間ですが不妊治療にも通うようになり、そんな時期に検索魔になって最初に書いた妊活中の登山について否定的な記事をいくつか見ることになりました。
妊活中は必死なもので、科学的根拠があるかどうかも関係なく、できることは試したいと思ってしまうものです。不妊治療中はスケジュールの制約も多いため、物理的にも泊りの登山に行くことが難しくなります。特に治療が進んで毎日注射を打つようになると、その周期はほぼ登山に行くことができません。
半年ほど不妊治療を試しましたが、結局成果は出ませんでした。登山に行きたくても毎日注射に通わなくてはならず、ストレスも溜まるため、43歳になる頃に治療は諦めました。以降は妊活のために何かを犠牲にすることはやめ、全て自然に任せることにしました。
私は不妊治療からの妊娠には至りませんでしたが、クリニックに通ったことについては全く後悔していません。むしろ自分の状況が分かって良かったと思っています。登山の話題から少し離れますが、登山のためだけに不妊治療を止めたわけではないので、不妊治療をやめる決断をした背景にも少し詳しく触れたいと思います。
私の場合、(少なくとも検査や治療を続ける過程でわかった範囲では)不妊要素は子宮筋腫と年齢(卵子の老化?)だけらしいということが分かりました。この2つは、現在の不妊治療では治療法がありません(子宮筋腫は手術で摘出するという方法もありますが、手術後しばらく避妊しなければならない、妊娠したら出産は帝王切開になるなどデメリットが大きすぎました)。仮に、生理周期(ホルモンの状態)が不安定とか、卵管閉塞、男性不妊といった、不妊治療の効果が大きい要因があれば、不妊治療を続けていたかも知れません。そういった症状ではなくても、排卵誘発剤が効きやすく卵子が多く採れるとか、胚盤胞が確実にできるような状況であれば、妊娠確率を上げることができるため、やはり続けていたかもしれません。私の場合はそういった治療の効果が高い不妊要因はなく、誘発剤が効きやすい年齢でもありませんでした。
治療をやめたもう1つの理由に、治療中に子宮筋腫がどんどん増えて大きくなっていったこともあります。薬や注射による影響か、単なる加齢によるものかは分かりませんが、治療を始めてから加速度的に大きくなっていった実感がありました(妊娠時に子宮筋腫を確認したときはそれ以上大きくなってはいませんでした)。
さらには、不妊治療に関する研究を色々と検索する過程で、自然妊娠にはある程度染色体異常などを修正する可能性があるという記事を読んだこともあります。斜め読みですしその記事の真偽やその研究がどう進んでいったのかは追っていないので分かりませんが、素人としては、そんなこともあり得るかも知れない、と直感的に思ってしまったのでした。
このように、治療の効果が大きい不妊要因がないこと、胚盤胞がほとんどできないこと、子宮筋腫がどんどん大きくなっていったこと、自然妊娠ならではの修正力があるかも知れない?という情報に触れたこと、時間の制約に伴うストレスなどを総合的に判断して、不妊治療を続けるよりは、ストレスのない普通の生活を続けて自然妊娠を狙う方が合っていると思い、半年で治療に見切りを付けたのです。
「40代で妊娠を狙うならすぐに不妊治療を始めるべき」という記事を見かけます(私もそういう記事を見て結婚直後にクリニックに駆け込みました)が、半分賛成で半分反対です。不妊要因がないか早く検査をするのは良いことで、そういう意味では大賛成です。ただ、婦人科医側から発信される情報は全て不妊治療のメリットばかり。不妊治療のデメリットや自然妊娠のメリットについてはほとんど語られることなく、高齢妊娠を狙うなら不妊治療が必要であるような意識の植え付けは客観性を書いているようにも思えます。素人考えですが、例えば薬や注射などによるホルモンバランスの乱れや、不妊治療に伴うストレスなどは妊娠の妨げにならないのでしょうか?不妊治療に携わる婦人科医からは、こういう点も真摯に説明して頂きたいです。そういったプロセスなしで、高齢妊娠を目指す全ての人に不妊治療ありきで語られる今の風潮には反対です。
話題を登山に戻します。
不妊治療を諦めてからは自然と毎週末のように夫と2人で登山に行く生活に戻り、クライミングな冬山登山に本格的に挑戦するようになりました。そうして治療をやめてから1年近く経った44歳目前で妊娠が判明しました。妊娠が判明した2020年3月は雪山シーズンの終盤でしたが、このシーズンは天気さえ良ければ毎週末登山に行っていました。人生でいちばん登山に行っていた時期だと思います。この時期は山行の大半が南北アルプスや八ヶ岳、浅間山といった冬山で、雪中テント泊も何度か行いました。毎週末のように体を動かしていたため、体力もあり体の調子もとても良い実感がありました。ストレスなく趣味を楽しみ、体の調子もとても良い状態…心身共に充実していたことが結局妊娠に繋がったのではないかと思います。
蛇足ですが、登山で体を動かしていたこと以外に、妊活の一環として葉酸に加え、ビタミンDやカルニチンのサプリメントも摂取していました。摂取するグループのほうがしないグループと比べて妊娠率が向上するという研究があることが医師から発信されていたためです。どの程度効いたのか、飲まなくても妊娠したのかは、調べようがありませんが…。



不妊治療中と不妊治療をやめて自然妊娠を狙って妊活していた時期の実際の登山の内容についてはこちらをご覧ください(当時は山岳写真日記というテーマでこのブログを運営していたため、全ての山行をアップしていたわけではありません)。
酸素不足と冷えは流産の要因にもなるとされています。しかし妊娠2ヶ月に差し掛かった頃に妊娠に気づかず1泊2日で常念岳東尾根(冬季ルート)に行ってしまいましたが流産しませんでした。流産の原因は染色体異常がもっとも多く、その他の要因も感染症や不育症などが多くの割合を占めます。流産する時は山に行っても行かなくても流産してしまうものだと思います。冒頭の普段山に行かない人が突然ご来光富士登山といったハイリスクなケースは別として、通常行っている山行の技術・体力・標高の範囲内で体調管理を行った上での登山であれば、高山病のリスクはほとんどないはずです。
登山に行っていた方は、妊活中もその状態をキープした方が、ストレスを溜めることもなく、運動不足になることもなく、心身ともに健康を保つことができてメリットが多いのではないかと思います。もちろん治療に専念している方に途中で治療を放棄してまで登山を続けるように勧めるわけではありません。不妊治療の効果が大きい方は治療を優先した方が良いかもしれません。年齢的なリミットもあることです。登山に行ったことを後悔するくらいなら止めた方が良いと思います。山は逃げません。治療のスケジュールと山に行きたいタイミングが合った時に行けば良いのです。
登山を無理して止める必要は全くないし、逆に治療でスケジュールの調整が難しい時期に無理して続ける必要もない、自分の心に問いかけて、その時にどこに心が向いているか考えて決めるのが良いのだと思います。
